パブリシティ

<スモールBIZ>発達障害の子の心開け──訪問教育のVB起業/元看護師が一念発起

自閉症や注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの発達障害を持った子供に訪問教育サービスを提供するベンチャー企業が神戸市にある。同種の会社は欧米に多数あるが日本にはまだ珍しい。社長を務めるのは女性。教育、医療、福祉のはざまともいえる分野に挑む。
 7月末のよく晴れた暑い土曜日。神戸市内のセミナー会場に集まった70人の参加者が次々質問する。
 「子供が一方的にしゃべり続けます。どうしたらいいですか」「お子さんが求める言葉ばかり返さずお母さんの意見を話すことです。他者には他者の気持ちがあると気付かせましょう」
 親たちの質問に答えるのは江口博美さん(33)。セミナー主催者で、発達障害児への教育サービスをするキッズパワー(神戸市)の社長だ。社長も含めたスタッフ6人のうち5人が女性だ。発達障害の子供は対人関係や社会適応の技能を学ぶ能力が弱い。完治は難しいが「環境を整えて必要なことを教えれば、徐々に学んでいく」(江口さん)と言う。

●日常環境で訓練
 キッズパワーでは発達障害の子供を家庭訪問し「かんしゃくを起こさない」「人と目を合わせる」から始まる様々な技法を教える。子供への教育と並行し、親にも子供への教え方を学んでもらう。現在、月10回訪問の基本パターンのサービスを提供する家庭が15。訪問先の協力を得て映像に記録しチェックする。
 家庭訪問するのは、日常環境の中での訓練が重要と考えるため。「発達障害児を対象にした企業の訪問サービスは国内でほかにない」(江口さん)と言う。
 「20円の品物を買うには、どのコインを使ったらいいですか」。兵庫県内のある訪問先家庭の子供部屋。江口さんが6歳の男の子と買い物の練習をする。
 家庭に通い始めた4年前。食事以外にその子供の活動はほとんどなく言葉も発しなかったが、抽象概念の理解や他人の感情の洞察など、発達障害の子供に困難とされることができるようになってきた。母親は「私の誕生日に手作りのネックレスをくれた。繊細な感情を持つようになりました」と感慨深げ。

●学ぶ目標細分化
 教育は行動分析の手法も応用、理詰めで進む。靴を履くことの場合、つま先を突っ込むことができたら靴のかかと部分を持つ。次に靴のかかと部分を引っ張り、最後にかかとを入れるという格好。細分化して1歩1歩進め、「最後は1人で履けるようになる」。
 事業を始めるに際しては偶然が重なった。
 高校を出た江口さんはフリーター生活をしていた。昼にアルバイト、そのまま大阪・梅田で飲み明かす毎日だったが、徐々にむなしさを覚える。「何か資格を取ろう」と看護の専門学校に入学したが「理論と実践が密接に関係しおもしろい」と引き込まれる。短大を経て大阪府豊中市の病院に看護師として勤めた。
 外科病棟などで働くうち「入院患者を取り巻く問題を解決し、彼らが望む生活をできるようにしたい」と志を抱くが、患者本位にほど遠い病院の実態に直面。理想と現実のギャップは広がるばかり。一念発起し、兵庫県立看護大学(現在の兵庫県立大学)に3年から編入した。
 4年生の春休みに転機が訪れた。ボランティアで発達障害の子供に接し「病院で仕事していたのに存在を知らなかった」と衝撃を受ける。できることはないかと思った。
 やがて思いは具体的な形を取る。大学で履修したベンチャー関連の課程で仮想ビジネスを立案することになったのがきっかけだ。
 ボランティアで会った子供が脳裏に浮かび「発達障害の子供たちの成長を助けるベンチャーはどうか」と提案したところ評判を呼ぶ。兵庫県の外郭団体などが大学生対象に実施したベンチャー関連のコンテストで高い評価を得た。「やりたかったことはこれだ」と感じ、病院に戻るのをやめて起業することにした。
 2002年5月に個人で営業開始。発達障害の子供を持つ家庭を訪問し始めた。03年9月に会社設立。兵庫県の外郭団体の出資を受けた。
 10月には家庭訪問に続く新事業として発達障害の子供を対象にした就学前訓練を始める。教室に似た環境を再現し、授業や休み時間のほか掃除・給食などの活動をする“模擬授業”だ。「発達障害の子供たちが小学校に入る際、集団に入れずつまずくことが多いが、スムーズにとけ込めるよう手助けしたい」。新たなサービスを日本に根付かせるために奮闘の日々が続く。
(大阪経済部 安藤秀聡)

《執筆》
看護展望 第28巻第12号 Page10〜11 2003年11月
『企業にも看護あり−起業した看護師として?−』

看護展望 第28巻第13号 Page10〜11 2003年12月
『起業するおもしろさ―起業した看護師として?―』

Nursing Today 第18巻第14号 Page60−61 2003年12月 
短期連載 起業したナースたち 第3回『自閉症の子どもたちのための療育サービス』

日本看護技術学会誌 第5巻第1号 Page18−19 2006年5月
『看護の本質を使って起業する』

《学会発表》
日本心理学会 2003年9月13〜15日 東京大学
『バイオロジカルモーションの認知発達』 ポスター発表
江口博美(株式会社Kid’s Power) 乾敏郎(京都大学大学院情報学研究科) 吉田千里(京都大学大学院情報学研究科) 片山正寛(国立循環器病センター脳血管内科) 堀あいこ(関西医科大学香里病院小児科) 安原昭博(関西医科大学香里病院小児科)

日本認知心理学会 2004年6月28日 日本大学
『自閉症におけるBiological Motion(BM)の認知障害』 口頭発表
安原昭博(関西医科大学香里病院小児科) 堀あいこ(関西医科大学香里病院小児科) 片山正寛(国立循環器病センター脳血管内科) 江口博美(株式会社Kid’s Power) 吉田千里(京都大学大学院情報学研究科) 
乾敏郎(京都大学大学院情報学研究科) 

日本看護技術学会第4回学術集会 2005年11月19〜20日 つくば国際会議場大ホール
『可能性をつくる:看護機能の拡大と新しい領域の創造』 講演
http://www.jsnas4.org/program.html



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